靴をそろえる。
家に帰ると必ずやる。
家族の分も全部そろえる。
やらないと気持ちが悪い。
そんな、自分ルール。
いつからはじめたのか、ぼんやりと覚えている。
中学のとき、野球少年だった。
学校の野球部と地元の軟式チームに所属していた。
月火水金土日(木曜日は定休日)、ずーっと白球を追いかけた。バッターボックスに入る前は同じ動作を同じ順番でやるなんて、イチローみたいな格好つけたこともやっていた。
それだけ願掛けには余念が無い。
祈って祈って、走って走った。
そんな時分、テレビを見ていたら桑田真澄が野球について熱く語っていた。
すごいな。あんな風にはなれないのね。
なんて、すこし現実見てますよ風の斜に構えた嫌なやつだった私は、なんだかちょっと哀しくなっていた。
だけど、彼が言った。
一語一句が正しいわけではないけど、確かに彼はこう言った。
「高校時代、ずっと玄関の靴をそろえていた。良いプレーができるように。」
衝撃だった。
そんなこと誰でもできるじゃん。
なんだったらだれでもやってる・・・
・・・私はやっていなかった。
その違い。
天才的な才能、だれよりも努力できる精神。
たぶん敵わない要素は数え切れない。
でもこれだけは圧倒的に負けていた。
そして、負けてはいけない部分だと思った。
以来、家へ帰ると必ず靴をそろえるようになった。
野球は中学でやめてしまった。
それでも続けた。
毎日続けた。
次第に目的も忘れて、習慣になった。
高校を卒業して、大学へ進学し、
こうやって思い出すまで、あの言葉は過去のものだった。
ようやく同点かもしれない。