履歴書、風呂なし、生乾き

迷盤?THE BLUE HEARTSのリミックスアルバム『KING OF MIX』

 

 自粛自粛で暇を持て余し、ついには重たい腰を上げて部屋の整理に手を出してしまった。見て見ぬふりをしていたが、真摯に受け止めると汚い。足の踏み場もないとはまさにこのことか。親に片付けろとぎゃんぎゃん言われてはいたが、これが自分の子なら言いたくなる気持ちもわかる。

 

 とにかく、どこから手を付けていいかわからなかったので、比較的きれいな本棚の整理から始める。とは言っても、お堅い純文学とやらはリビングに飾られているので、あるのは専ら漫画とCDである。ワンピースは七十一巻以降入手していないが、あと五年で完結するとかしないとか。ここまで壮大に描いてきてどんなオチをつけるのか、非常に見ものである。

 

 それはさておき、気になったのはこのCDである。

 

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 中学時代、かのブルーハーツにまだ影響されたてで、こんなの見たことない!と素直に買ってしまったCDである。誰しもにCDをかけながらでないと寝むれない時期があったと思うが、一時期これ無しに寝むれなかった。片付けの手をいったん止め、当時の感想を思い出しながら、数年ぶりに聴き返してみることとする。

 

 

 

 これは一九九四年発売の『KING OF MIX』というアルバムで、彼らの音源に他のアーティストたちが手を加えた、いわゆるリミックスという奴である。愚かにも聴くまで気づかなかった。「盗賊団」という名義で発表され、十数人の有名アーティストがクレジットに名が連ねられているが、私は誰一人も知らないので言及しない。海外の人も参加しているそうな。甲本ヒロト曰く「もっとグチャグチャにしてくれればよかったのに。意外にまともだった」と評価している(wiki参照)。友達に聴かせたところ「ほんとに盗まれたみたい」との評価だった。

 

 収録曲数は十四曲であるが、うち「情熱の薔薇」と「ダンスナンバー」は重複している。この、他がやってても「うちはうちで」やる感じ、製作者の強情さが垣間見えて好ましく思う。

 

 初めて聴いたとき一番印象的だったのは「少年の詩」と記憶している。原曲を知らなかったので、その破壊的なノイズや無機質なドラム、最後の子供たちの合唱が強く残ってしまい、ホラーチックな曲なのだと勘違いしていた。一番出だしの「パパママおはようございます」から「ドアを開けても 何も見つからない そこから遠くを眺めてるだけじゃ」だったので、そのあとの展開に親を殺して自由になろうとしたのではないかとよく想像したものである。

 

 「夢の駅」もよく印象に残っていた。三分近くあるテクノポップなイントロに、都会の中なのに人っ子一人いない列車に揺られているような感覚に襲われたものだ。そこへ「お待たせしました 次の駅は 幸せばかりの 夢の駅ー。」とアナウンスのようなヒロトの声に、天国にでもついたのかと錯覚させられた。

 

 聴き返してみると、ヒロトの発言にうなづけるところは聴いて取れる。「TRAIN-TRAIN」はジャズ調のアレンジがなされているが、かなりストレートなミックスだと思う。前半の「情熱の薔薇」は、「情熱」に連想されるラテン的な曲調へのアレンジであるが、パンクな印象と勢いは強く残っている。「意外とまとも」と評されるほどに、いちマニアとしても決して聴き心地の悪いものではない。

 

 ブルーハーツがクラブでかかっているとの噂から始まった企画らしいが、友達の「盗まれた」という感覚はあながち間違いではないと今では思う。ブルーハーツの歌の数々は、虐げられた者や引き籠ってしまった者たちへ「お前はどうする?」という奮い立たせてくれるような投げかけが感じ取れる。しかし、それをクラブで踊り狂うために作り替えられていいものか。拠り所としていた者にとって「盗賊団」とは今で言う「ぱりぴ」だったのかもしれない。

 

 そういえば、昨今のロックもいわゆる陽キャたちの支持を受けて、世間で幅を利かせているように感じてしまう。単なる受け手のエゴかもしれないが、寂しさは否めない。ブルーハーツを聴き直すことにしよう。

 

 

 

 結局そのあと、片付けはやらなかった。

 

 塩野